タイ国立予防衛生研究所プロジェクトに参加して

1.プロジェクト実施の背景
   過去30年の間に感染症、疾病対策が実施され、大きく改善されてきましが、依然としてマラリア、デング熱、日本脳炎及び下痢症な どの疾患が多く、農業を経済基盤とする国造りに大きな障害となっている。 このプロジェクトは、国内に蔓延している感染症の予防     (ワクチン開発を含む)、治療に必要な研究を向上発展させるため、近代医学の技術を導入し、研究活動を助成することを目的とす    る。
 
2.プロジェクト活動の概要
 プロジェクトの概要
  ・無償資金協力供与による国立衛生研究所設立1985年8月に始まり、1994年7月終了。
   総建設費34億円、設備機材費5億円という大型予算のプロジェクトで1986年11月に竣工。
  ・設立地は、バンコック北部ノンタブリ県(市内よりドムアン国際空港方面、車で約30分)
  ・建物面積2000坪、フロア面積4600坪、鉄筋コンクリート製、三階建、約400室
 (1)ワクチン予防接種の現状 
    予防可能な疾病のワクチン接種計画が実施されているが接種率が極めて低い。しかし、 BCGに対する接種率は、70%以上と意  外に高いことに驚かされる。 
    日本では、狂犬病ワクチンは犬に接種するが、ここでは犬に咬まれた患者に強い副作用 のあるワクチンの接種の手当てを行  う。次に咬んだ犬を捕獲し、狂犬病ウイルスに罹患 の有無を検査結果のため、1〜2週間待ち続ける。患者はこの間、恐怖、神経的  苦悩で 顔面蒼白の状態である。
    ワクチンの種類は日本とほとんど同じであるが、抗血清類ではさすが南国熱帯的な 蛇毒:コプラ、キングコブラ、グリーンスネーク  等の蛇毒抗血清類が製造されている。
 (2)ワクチン開発に伴う問題点
   ・先ず細菌性ワクチンの自国の需要を満たす努力を行なう必要がある。
   ・日本を始め先進国、WHO、ユニセフ等の機関から資金援助、設備、施設の援助を受けて いるが、コーディネータがいない為、トー   タル的な援助にならず援助機能が生かせて いない状況下でのワクチン製造は、色々と困難である。
   ・タイ国特有、国民性と思われる技術移転の効果が縦横に広がりにくい特性、上意下達の伝統的な風潮がある。
   ・国家予算が充分に無ければ、スタッフの教育、技術移転を行っても製造を行う事が出来ない。  

3.現地の生活や人との交流
   研究所職員の内80%が女性という特色もあって、カウンターパートも当然女性が多く、研究に対する考え方、物の見方が南国的で  あり、国民性からくるずれは仕事を行ううえで大変です。
 たとえば、
   (1)時間にルーズ:食事に出て帰るのが2時間後、作業工程を繰り返し話をする。
   (2)セクショナリズム:それは、ワーカの仕事と知らん顔。
   (3)帰宅の時間:帰宅時間は早く、帰宅の後にもう一つのアルバイトか本業か。
   (4)カラフルな服装:無菌作業中も服装の交換が出来ない。
 この様な不都合を少しでも無くする、仕事の中での和を作るため
   (1)誕生会、クリスマス等を開き家に招待する。
   (2)昼食会を月に一度程度開く。
 を行いました。
 
4.滞在中苦労した点、喜び感動
   一番の喜びは、技術協力の対象で、タイ国産第一号の日本脳炎ワクチンが出来上がり、厳重な品質管理、検定に合格し、バンコッ ク西部の小学校の生徒に野外試験され、、安全性、有効性が証明された事です。 これはカウンターパートの努力、タイ他機関・大学   等及ぴ国内サポートの微研スタッフの協力、援助、支援によるものと感謝しています。
  ワクチン開発に伴う一番の問題点は、生産、研究に必要な原材料のマウス、無菌鶏卵の供給、検定作業に必要な実験動物、特に モルモット、マウス、兎等の供給が不安定なことでした。その他、製造工程中に必要な設備、機器の準備が遅れて揃わないことでし    た。