現地隊員レポート 「りる」第53号より
ベトナム R.A.
平成20年度3次隊
村落開発普及員
『活動のスタートラインに立つまでに』
大きな空とそびえたつ山々、広がる水田、赤や黄色の屋根、ノン笠をかぶった村人たち、早朝から賑わう市場、子供たちのはしゃぐ声、延々と続く世間話、ハンモックにゆられて昼寝、木陰でお茶をすする、ゆっくりと流れる時間。いつもの景色や音がそこにあり、村特有の「豊かさ」が感じられる。
ドンタム村の風景人口3500人の小さな村、首都ハノイから南東85kmに位置するベトナム国ホアビン省ドンタム村に住んで1年4カ月になる。村の農業形態は、日本の60〜100年前であると言われる通り、水牛を操って畑を耕し、手で田植え・稲刈り、トウモロコシやキャッサバを植え、収穫している。しかし、戦後の日本の農業改革との大きな違いは、同時に文明がすでに入ってきているということ。農家には、テレビがあり、扇風機があり、家によっては、ガスコンロ、冷蔵庫やインターネツトが接続されている。
1997年に合作社から農協に変化を遂げたのが、現在の私の配属先である。1285人の組合員を対象に6人の農協スタッフと彼らの収入向上を目指すことが、派遣当初の要請内容だった。実際、農協スタッフは、常勤ではなく、また農家であるため、農繁期に関わらず忙しそうであり、彼らの行動は読めない。そんな中、スタッフや組合員がどんな生活をし、どんなことに興味をもっているのか、観察し続けること1年1カ月。
すでにある村の豊かな生活リズムを壊すことなく、また畑仕事や家事と忙しく働く農家の女性達にすぅっと溶け込めるように受け入れられる活動をしたいと感じるようになった。そんな時、倹約質素の生活を奨励してきたベトナムの父、ホーチミンさんの教えを私に教えてくれたのが、私の活動のキーパーソンとなっているドンタム村役場の婦人会会長、バーイさんだ。
その教えをヒントに、村にあるもの、米所だから米ぬか、緑茶をよく飲む文化だから茶がら、家には果樹があり、台所には塩や酢があることを再認識し、自分の活動テーマにようやくたどり着いた。それは、「おばあちゃんの知恵」だった。早速、実家の母に本を数冊送ってもらい、ドンタム村にあるものでできる日本の暮らしの知恵を抜粋、資料を作成し、バーイさんに見せたところ、とても興味を持ってくれた。
念願叶って、2010年5月に婦人会幹部の会合で発表。始めに、村の日常生活において、すでに行っている節約術を私視点で話し、すばらしいと思うと伝えた。(すばらしいことだと知ってもらいたかった)そして、米ぬかの飼料以外の利用方法と家計簿の付け方を紹介した。農業や家事に日々追われている主婦が、簡単にほぼお金をかけずに取り組むことができ、その上少しだけどお金までうみだせる。家族を大事にしているみなさんだからこそ出来る賢いやり方なんだと伝えた。日本とドンタム村をつなげた「おばあちゃんの知恵」の魅力を感じてもらいたかった。
婦人部会の会合で発表結果、運よく好評だったようで、現在第2回目の発表に向け、バーイさんと協力し、ウキウキと資料を作っている。ここまでくるのに、時間がかかった。幾度となく「何も役に立てれないかも」という空虚感に襲われた。しかし、村人にならずに村人目線で物事を見つめる距離感を辛抱強く保ち、ふいに気づいたことを口にしていると、村に住む日本人がなんかおもしろそうなことを言ってるぞ、自分たちでもできそうだ、と興味を示してくれる。彼らと共生した経験から自分ができる「テーマ」を発見できるのではないかと思う。これこそ青年海外協力隊の醍醐味であり、自分だけの活動の出発点となるのである。
同上
問題は山積みではあるが、映画「菊次郎の夏」のテーマ曲がばっちりはまるのどかなドンタム村で、あせりは禁物である。