村の小学校 「りる」第16号より
タンザニア H.I.
平成7年1次隊
果樹
青年海外協力隊員としての二年の任期が終わろうとしている。
最後の約半年間は隊員活動の合間に村の小学校で授業をすることになった。校長先生に「日本文化の紹介も兼ねて、子供達と触れ合いたい。」と申し出ると、毎週二回の授業が割り当てられた。教えることになったのは一年生。一クラスで六十八名。
小学校は一年生から七年生までで、各学年一クラスずつしかない。理由は教室が足りないからである。しかも一年生と二年生は一つの教室を、午前は一年生、午後は二年生が使う。
学年が上がるに従って生徒の数は減り、今年度の七年生は二十七人しかいない。理由は三つ考えられる。
まず、一年生の時から進級テストがあり、合格点に達しなければもう一度同じ学年をやり直さなければならないこと。次に、村人にとっては年間約二百円の学費を払い続けることが難しく、三〜四年生でやめてしまう生徒が多いこと。最後に、子供達は勉強が嫌いで、親も無理に勉強させようとはせず、男の子は農業、女の子は子守りや家政婦をすれば現金が手に入るため、学校へは行こうとしないことである。
小学校の先生達と
話しを元に戻して、私の授業の内容を少し紹介しよう。
一番初めに折り紙で「カブト」を作った。タンザニアでは紙はとても貴重品で、色の付いたきれいな紙を見るのはみんな初めてで、目を輝かせていたのだが、苦労はこれからであった。
紙を二つに折って三角形を作ることが出来ないのである。大きな紙を使って何度もやって見せ、個別に見てまわってやっと全員三角形を作ることができた。
毎回こんな調子で、カブト一つ作るのに二時間以上かかってしまう。こんなに時間がかかるとは思ってもみなかったし、六十八人を相手にしていたので疲労こんぱいという感じだったが、子供達が自分で作ったカブトを手にして、自慢げに、そしてとても嬉しそうにしているのを見ると疲れも薄らぎ、次の授業もがんばってみようかという気持ちにさせられ、半年間続いたのである。
新聞紙でカブトを作ってはしゃぐ生徒達(教室にて)
二度三度とカブト作りを繰り返すうちに折り方を覚えてくれたので、新聞紙でカブトを作ることにした。出来上がったらみんな大はしゃぎで、上級生のクラスまで見せに行った。
折り紙の他には貼り絵も教えた、それぞれに好きな絵を書かせて、そこに細かく切った色紙を貼っていくのだが、ここでもまた困ったことが・・・。
テレビはおろか写真や本すらなく、美術の授業なんてもちろんないため、生徒達はほとんど絵というものを見たことがなく、絵が書けないのだ。そこで、私が黒板に花や車等のごく単純な絵を描いて、それを参考に作品を作ってもらった。
はじめは色紙も適当に貼っていたが、回を重ねるにつれて絵に個性が出てきて、色使いもよくなってきた。
短期間ではあったが、大変貴重な体験をすることができた。私が痛切に感じたことは、タンザニアの子供達は教育環境に恵まれておらず、とてもかわいそうだということである。
教科書もなく、ノートもなかなか買えず、六十八人のやんちゃな生徒に先生一人。入学して半年が経つのにAからZまで書ける生徒は一人もいない。自分の名前を間違えずに書けるのは十名程度である。
村に居る限り彼らは、日常生活で文字を見ることはないのである。覚えようともしないし、覚える機会も少ないのである。
子供達と植樹
生徒達とも、もうお別れかと思うと、とても残念である。タンザニアにはマコンデやティンガティンガと呼ばれる美術品があるが、そのようなものを創ることのできる才能を持った子供達が全国にたくさんいるのだろう。その才能に気付かないままで・・・。