セルーGRで迎えた正月   「りる」第11号より

     タンザニア        H.I.

                     平成7年1次隊

                     果樹

 

 タンザニアのセルーゲームリザーブは九州とほぼ同じ面積で世界最大の動物保護区です。

 私は、九十五年十二月三十日から九十六年一月三日までをセルーの隊員宅で過ごしました。日中の気温は四十度を軽く越え、何もする気にはなれず、ただ、ボーッとするしかなく、師走という感じは微塵もありませんでした。動物も昼間は木陰でじっとしていて、朝夕の涼しい時間に行動します。隊員宅のすぐ横が象が水場に行くための通り道となっており、毎日朝晩、数頭の象を間近で見ることができました。

アフリカ象はインド象に比べて気性が荒く、すぐに威嚇してくるし、あの巨体で足が長いので、象は本気で走ってなくても、人間にしてみればものすごいスピードで迫って来るのです。逃げ道を確保し、象の顔色を伺いながら近付いて行っては写真を撮り、象が向かってくる気配を感じると一目散に逃げるのです。でも日を重ねる毎に慣れてくるし、少してもいい写真を撮りたいとも思うので、だんだん象と自分との距離が縮まり、本当の象の怖さを知っている人に「それ以上は近付くな。」とよく注意されました。

   アフリカ象の巨体


 朝は象が見えるからいいのですが、夜はたき火と月明かりだけなので象の姿は見えません。だからカサカサと木の音がすると、夕飯のお皿を持ったまま避難し、ライトで何者かを確認してもし象だったら通り過ぎるのを待ちます。このように毎日象に適度な運動をさせてもらったおかげで正月太りにはなりませんでした。

 三十一日はラジオ日本で紅白の生中継を聞いていたのでですが、その時間こちらでは一番暑い時刻。やはり紅白は暖かい部屋でゆっくり聞くのが一番です。九十六年になった時、村の人々が車に乗って「新年おめでとう。」と叫びながら村中を走り、その後音楽をかけて宴会のようなことをやっていました。朝になると教会に行き、その後は水汲みに行ったり、薪割りをしたり、普段と同じ生活に戻ります。

   現地の子供たちとI隊員


 私達は早起きして初日の出を見に行ったのですが、生憎うっすらと雲がかかっていて、地平線から昇る朝日は見ることが出来ませんでした。その代わり、薄闇の中、車の音にびっくりして駆けていくキリンやシマウマの美しいシルエットを見ることができて感動的でした。セルーにはハンターがいるので、動物は人を恐れてすぐに逃げるのです。それから、林の中に湧き出している温泉に行きました。これぞ正にジャングル風呂です。ここでは日本的な雰囲気を楽しむことができました。

 これが私が日本を離れて初めて過ごしたお正月の様子です。来年のお正月はどのように過ごそうかともうすでに考えてしまいます。