シリアで暮らした2年間と協力隊活動 「りる」第17号より

     シリア           S.T.

                     平成7年2次隊

                     電子機器

 

私は1995年12月7日から1997年12月5日まで、シリアで協力隊員として生活しました。以下、このシリアでの生活と協力隊活動について報告させていただきます。

、シリアという国の概要とシリアでの生活について

 以前にも報告しましたが、改めてシリアという国について簡単に紹介します。

位置 シリアは中東の国で、地図の上では、イスラエルの斜め右上、トルコの下、イラクの左、レバノンの右、ヨルダンの上に位置しています。(私も協力隊員になるまでは、よく知りませんでした。)

広さと人口等 日本の半分ほどの広さの土地に、1500万人ほどの人が生活しています。イスラム教徒(ムスリム)が国民の9割を占めますが、キリスト教徒も1割程度住んでおり、もちろんイスラム色は強いのですが、イスラム一色というわけではありません。(正統とされるイスラムの宗派(スンナ)以外にも多数の宗派(シーア、ドルーズ、イスマイール等)が存在し、キリスト教徒も(アルメニア正教、ギリシア正教、カソリック等)多彩です。)ヨーロッパとアラビア半島の中間に位置するので、人の顔つきもさまざまで、ヨーロッパ的な人もいれば、浅黒いアラブ的な人もいます。

アフリカも近いので、例えばスーダンからきているアフリカ的な人もおり、人種のるつぼといっていいと思うのですが、東洋系の人は珍しいです。歴史的にも、十字軍の舞台となった土地であり(十字軍当時の遺跡、シュバリエ城、マルカブ城、サラハディーン城(サラハディーンは十字軍時代のイスラム側の英雄で、ダマスカスにお墓が残っている)などが多数残っている。)、東西、アフリカの人たちとさまざまな人がやってきて、暮らしたことを感じさせます。人種と宗教のモザイクのような所です。    

気候等 シリアは日本の九州くらいの緯度に位置していて、冬には雪が降ることもあります。国の東半分は砂漠で普通にイメージされる中東の砂漠の景色がみられますが、国の西半分は海岸沿いの地域で雨も多く、森もあり、シリアは砂漠だけの国ではありません。春と秋は短く、夏の間(だいたい6月から9月くらいまで)は乾燥していて、雨は冬に降ります。雨があまり降らないので、傘を持ち歩く習慣はなく、10月ごろには雨の中、傘をささずに歩いている人をよく見かけます。

首都 首都はダマスカスという古い町で、かつて、8世紀ごろのウマイヤ朝の時代に、イスラム帝国の首都だった町です。現在では、100万人以上の人が住んでいます。

産業等 主な産業は農業で、町では新鮮な野菜や果物がたくさん売られています。(kg単位のはかり売りが普通。)じゃがいも、キャベツ、なす、ほうれん草、人参、ピーマン、玉ねぎなど、日本で買える野菜は、ほとんどシリアにもあります。大根はなく、隊員仲間では、おでんができないと嘆いていました。

香辛料は豊富で、コリアンダーなどは、1束10円くらいで売られています。果物も多く、すいか、みかん、りんご、ぶどう、さくらんぼ等一通りそろっています。日本で見ない珍しいものには、サボテンの実(夏の間だけ、屋台で売られる)、生アーモンド(塩をつけてかじる)などがあります。

現地の人の生活 イスラム教徒は豚は食べないので、町で豚肉をみることはあまりありません。(キリスト教徒は豚肉を食べる)羊肉料理がおめでたい席の料理となっています。(結婚式のお祝いには、マンサフやマグルーバと呼ばれる羊や鶏をのせた皿に盛ったご飯が食べられます)鶏肉もよく食べられており、フライドチキンなども普通kg単位で売られています。ホブズという平たいアラビアバンが主食です。米も売られており、油とパスタを混ぜた炊き込みご飯(ルズ ビ シャイリーエ)も家庭料理のメニューにあり、日本人には嬉しい味です。

 

  アラブ料理のご馳走 アラビア語の家庭教師、シリア人の友人



 公務員の仕事は、朝8時半に始まり、2時過ぎには終わります。(途中10時半から30分の休憩があり、朝食をこの時間に食べる)その後、家に帰り昼ご飯を食べます。たいていの公務員は、昼食後夕方から、別の(第二の)仕事にでかけます。(公務員の給与が低いので、たいていの公務員は仕事をふたつ持っています。)

一般の商店も昼12時くらいに営業を始めて、2時か3時くらいまで店を開けた後、休んで、夕方6時くらいから、また営業します。昼食の後は昼寝の時間です。特に夏は昼間暑い(ただし乾燥していて比較的すごしやすい)ので、昼間は町に人気がなく、夜は遅くまで、町が賑わいます。

言葉 公用語はアラビア語で、かつてフランスの委任統治国だったので、年配の人は、学校でフランス語を勉強したようです。テレビのニュースもアラビア語の番組の他に、英語とフランス語のニュースがあります。

2、協力隊活動について

配属先の要請内容と背景 配属先は、首都ダマスカスの中心から車で約20分の郊外にある工業省工業試験研究所電気課でした。工業試験研究所電気課の主な業務は、外部から持ち込まれる検品がシリア規格に適合しているかどうかの確認のための検査です。工場(主に個人経営)の操業に先立って、操業を認可するかどうかを工業省が決定するために、検査を行っています。

検査結果は、レポートにまとめられ、工業省に送られます。主な検品は、外国(主にヨーロッパ)から輸入された部品を組み立てた家庭用電気製品でした。シリア規格といっても国際規格(IEC等)を翻訳したものです。

 私の活動の要請内容は、家庭用電気製品の検査でした。

  職場で家電製品の検品カタログ


職場の問題点 要請背景調査表(要請を調査した日本人側から提出される要請の内容)では、カウンターパート教育も活動の項目に含まれていましたが、具体的に誰が、実際に新しい検査方法を勉強するのか明らかではありませんでした。シリア側の意識としては、検査を代行してくれる日本人が欲しいだけで、カウンターパート教育までは望んでいないという問題がありました。つまり、新しい検査方法で新たに検査できる項目が増えることには、賛成するのですが、自分は担当したくない、という総論賛成、各論反対の状態でした。

 配属先には、故障している測定装置が多数あり、装置の修理も依頼されましたが、メンテナンスマニュアルはなく、工具、修理のための部品もありませんでした。そういった測定装置を使用する全体的な職場環境が重要だという意識はなく(だからこそ途上国ではあるのですが)、装置を購入さえすれば、何の予備知識もない人が測定装置を使用できるというような幻想を抱いているという問題がありました。

 測定のための簡単な装置、例えば直流電源などは、それほど高い精度が必要ないのであれば、簡単に自作できるのですが、(実際配属先での測定の現状では、それほど高い精度は要求されておらず、また製作のための時間はあり、資金も不足しており条件は整っていました)自分たちで装置)を工夫するよりも、装置を買ってくるほうを好む(つまり、装置の原理や電気、電子の一般的な知識に欠けるので、自分たちで工夫することができない)という問題もありました。

 規格に適合しているかどうかを検査することが、配属先の業務であるにもかかわらず、規格は常備されておらず、規格を翻訳している組織は別にあり、新しい検品がくるたびに、規格担当の組織に、規格の送付を依頼しており、効率の悪い方法で業務を進めているという問題もありました。

    配属先の同僚


実際の活動 要請どおり、洗濯機、扇風機、冷蔵庫、鉛蓄電池などの製品の絶縁耐圧、消費電流等を測定していました。

 基本的に、電気回路、電子回路の測定を行えるようなレベルではなく、電気、電子に興味を持ってもらって、勉強してもらおうと考えました。興味を持ってもらうために、簡単な測定のための装置をいくつか自作しましたが、反応はありませんでした。仕事にたいする考え方を変えるのは、時間がかかるので、いい方法は、簡単には見つかりません。

形式的なカウンターパートの電気課の課長自体、配属先での仕事より、午後の別の仕事(シリアの公務員は、たいてい公務員としての仕事と午後の別の私的な仕事のふたつの仕事を持っていることが一般的です。公務員の給与が低いからだと言われています。)のほうが、大切だと考えており、(配属先では、多くの人が配属先での仕事は、午後の仕事に出かける前の休憩だと日本人には放言してはばかりませんでした)他の課員を動かすのは、予算的にも難しい状況でした。

 とりあえず、機器の自作を実際に見せるために、(協力隊事務局の)支援経費で部品を買って、製作に着手しました。また、青年海外協力隊を育てる会にも、技術的な問い合わせや、データシートの入手でお世話になりました。製作の目的は、シリア側に電気、電子に興味を持ってもらうこと、実際の測定の役に立てること、ひいてはそれらの知識をとおしてシリア側白身で測定を工夫できるようにすることでした。実際に作ったものを見せて、作ってみないか、ともちかけましたが、結局2年間の任期では、大きな進展はありませんでした。

  音の出るおもちゃの製作 職場にて


3、協力隊員として2年間 シリアで暮らした感想

 仕事がうまくいったとは、とても思えませんが、仕事以外で知り合ったシリア人の友達にお世話になりました。そういった友人と話すことで、シリアに対する見方が偏らないように心がけていました。非効率な国営部門で働いているので、仕事はうまくいかないことが多いのですが、(問題点が多い配属先だからこそ隊員が派遣されているわけですから)シリアで生活することで、友人とお茶を飲んで話す時間を取り戻させてもらったと感謝しています。

日本で働いていると、ゆっくり考える時間すらあまりなくて、あわただしく毎日が過ぎていきますが、シリアで家族や友人、人生について考える心のゆとりを一時的にでも取り戻させてもらったと思っています。日本人のように、ぜいたくな家庭電気製品にかこまれて暮らしているわけではないですけど、シリアの人たちは、家族や友人との時間を大切にして、人間らしい暮らしをしていると感じました。

 最後に、仕事のための情報入手でお世話になった、香川県青年海外協力隊を育てる会に感謝しています。ありがとうこざいました。