青い珊瑚礁 「りる」第19号より
モルディブ Y.S.
平成9年度2次隊
建築施工
今年はモルディヴ共和国共和制施行三十周年の年ということで様々な行事が年間を通じて行なわれています。この原稿を書いている今日は共和制施行の記念日にあたり四日間の連休となっています。
私の住むNOO・MURAKA(ヌー・ムラカ)という名前の家の前も国旗の色である赤や緑、白といった旗が道路いっぱいにはためいています。屋根の上には椰子の木をかたどったというイルミネーション付の巨大なオブジェが大家の家族によってとりつけられました。
ずんぐりむっくりした形はとても椰子の木には見えませんが、取り付けを見学している僕に向かってモルディヴィアンクリスマスだ!と大家の息子が叫ぶのに、おいおいモルディヴはイスラム教だろ!とつっこみをいれながらまあまあクリスマスツリーと思えば見れない事もないかなあと思いました。
モルディヴ中の家々が壁のペンキを塗り直し、まさにクリスマスさながらにイルミネーションを壁一杯に取り付けて、街はお祭り気分一色です。ただし、とっても暑いですが・・・。
カウンターパートのイヤーズ君と共に地方島に出張し測量を行う
さて、この私の住むヌー・ムラカですが、モルディヴの家には屋号とでもいうのでしょうか、必ず名前が付いています。これはなかなか便利な物でこの名前をいうだけでタクシーはちゃんとこの家まで行ってくれます。
この屋号それぞれにちゃんと意味があるのですが、我が、ヌー・ムラカはこの国の言葉で青い珊瑚という意味になります。初めてこの名前の意味を知った時はなんてモルディヴらしい名前だろうと思いました。
モルディヴはダイビングをする人達にはとても有名で、ダイビング雑誌には何度も特集が組まれるしダイバー憧れの地でもあります。しかし、そのモルディヴもたいへんな問題を抱えています。それはサンゴの白化現象です。
これは海水温の上昇によりサンゴと共生する単細胞植物の褐虫藻が離れてそこから栄養を得ているサンゴは死滅してしまい白色に変化する現象です。こうなるともとに戻るには十年以上かかると言われています。
私がこの国に来た当初は、青い海の中で太陽の光を遠くに浴びて鮮やかに輝いて見せていたサンゴは、今や生気を失いその痛々しい姿を私達にさらしています。今、この現象はこの国だけでなくオーストラリアや沖縄、大洋州全域でも報告されていると聞きますし、地球規模の問題になっていると思われます。
モルディブの海
先日海に泳ぎに行きました。サンゴが死んでいるとは言え魚達は変わらずきれいな姿を私達に見せてくれています。島のまわりの深いところを泳いでいると、アジの群れが私の後から追い抜いて行きました。銀鱗にうっすらとブルーをまとい群れる姿は太陽の光を浴びてキラキラと幻想的な姿を浮かび上がらせていました。
しかもその群れはとてもとても大きな群れで、視界いっぱいにひろがって私をグングン追い抜いていき、そしてその群れはいつまでも止らずにどこまでもどこまでも続いていくかのようでした。
私は海を覗き込む時に宇宙の深淵を覗き込む人類と同じように、不思議さへの好奇心と別世界を感じさせる神秘を感じます。私がアジの群れを見たときの事を思い出すたびに私自身が宇宙の中を泳ぎ、そのなかで突如として流星群に出遭ったようなそんなイメージをこころの中に思い浮かべます。
そんな素晴らしい光景を目にする事が出来るが故に、私はそのうしろで死滅しているサンゴ達に大きな痛みを感じます。これはいったい誰の罪なのでしょうか?私はとても理不尽な怒りをおぼえます。一週間から一ヵ月もあればサンゴは死滅するそうです。しかし、それらが再生するには十年以上の月日が必要です。
モルディブの少年
私はこの国に来て、私達をとりまく自然達はとても長いペースで歴史を刻んでいく事を実感する事が出来ましたし、その自然達から私は大きな感動を得ることもできました。私はこの国とこの国の自然をとても愛しく感じています。ですから私はこの国の自然が傷つく時に私自身も大きな痛みを感じるのです。