現地隊員レポート 「りる」第60号より
マーシャル N.K.
平成22年度3次隊
理数科教師
『日本のみなさん、こんにちは。』
マーシャル諸島での生活も早いもので一年と10か月がたちました。マーシャル諸島は日本と歴史的背景からつながりがあり、人々は親日的感情をもっていてとても寛容です。北緯8度に位置するこの地域は寒さなど一切感じることなどありません。毎日流れる汗をタオルでふき、日本からもってきたうちわが年中問わず大活躍です。私はクワジェリン高校で数学を教えています。今回は先生をしていながら私が感じるマーシャル諸島の魅力、文化を日本と比較して紹介していきます。
日本と大きく違うマーシャルの生徒たち
まず、この国の子どもたちの特徴を紹介します。生徒は制服で登校しますが靴ではなくサンダルでも問題ありません。そして、水曜日は「Washing Day(洗濯をする日)」で、私服で登校します。子どもたちは水曜日が大好きで個性を全面的に服装でだし、特に女子生徒はきれいな服で登校してきます。配属先のクワジェリン高校では副教科は存在せず、数学、英語、理科、社会(歴史、地理)そして、マーシャル語の5教科を学んでいます。
生徒日本では絶対に見られない格好があります。それは、男子生徒の「テイル(しっぽ)」です。これは後頭部の髪の毛だけを残して切り、その部分だけを伸ばして垂らすしっぽのような髪の毛です。赴任当初、これも文化の一部なのかと思っていて、マーシャル人の友人にも「命と同じくらい大切」とまで言われていたので、生徒になにも言えませんでした。
しかし、同僚の先生間の中でテイルが学校の風紀を乱すとの意見で、このテイルにとりわけ深い意味がなくただのファッションであることがわかり、私もこの意見に賛成しただちにカットするように生徒に命じました。しかし、案の定生徒は断固として反対しています。正直な意見なのですが、二年間テイルをみてきた私には何が格好いいか理解しがたく、、、異文化とは不思議です。
マーシャルの生徒たちも英語を学びますが、日本の生徒に比べて英語力は高く、特に発音がきれいです。この国は英語が公用語であるため、また、アメリカのテレビの影響により英語に触れる機会が増えているため英語に聞きなれています。そして、マーシャルにはマーシャル語で書かれた教科書が存在しない為、数学や理科、社会の授業を英語でうけます。
それゆえに、各教科の習熟度が母国語で学習できないため低いです。日本は母国語で教育を受けられる珍しい国です。先代の日本人数学者が外国に行き、数学を研究・翻訳しそれを日本に導入した結果、我々は数学を日本語で学べる、先代の日本人数学者の努力のたまものでしょう。そして、マーシャル人の生徒をみて日本の英語教育も見直していかないと、日本の子どもたちは今の国際社会でほかの国と渡り合っていけないのではないかと考えるようになりました。
日本と同様に土日は休みですが、日曜日の朝はみんな教会にお祈りに行きます。日曜日の昼は基本的にすることはないので、休息しているか、海に泳ぎに行くかします。私も子どもたちと一緒に海で泳ぐのですが、彼らの水泳能力には驚きます。小さい頃から泳いでいるため、男女間わずみんな泳げますし、水深6mほどでも平気でタッチして海面に戻ってきます。彼らは生活の一部に釣りやシュノーケリングがあり、魚をとらないと生活できない子どもたちもいます。そのため、必然的に水泳能力が身についています。
何より、マーシャルの子どもたちは人を元気にする力に長けています。クラスで誰かがおどけたり、みんなの前でダンスを披露したりすると周りの子どもたちは無邪気に笑います。その様子は日本では決してみられない光景です。そこにこの国の人間性の良さ、寛容さ、底抜けの明るさを感じます。
クワジェリン高校生の登校手段
配属先であるクワジェリン高校は私の住むグジグ村にあり、生徒のほとんどは7km離れたイバイ市からグジグ村までバスで通っています。この道は舗装されていないため凹凸が激しく、バスにのるとアトラクションに乗っているかのように体が上下します。そして、高潮が起きると、道は石だらけになってバスがパンクしたり、海水が道を覆うためバスがはまり込んで動かなくなったりします。そのため、学校が休校になることも珍しくありません。
通学路(高潮前)そんな中、「草の根無償資金協力」でバスを得られる可能性があるとの話を伺い、クワジェリン高校のバス通学の困難な状況を説明し、生徒の授業数の確保のために、新しいバスをクワジェリン高校に提供してくれました。生徒もこの新しいバスには大感謝で、これによって生徒も長い道のりを歩いて帰ることもなく、授業数も以前に比べて確保できるようになりました。
通学路(高潮後)日本と大きく異なるマーシャル人の先生たち
続いて、マーシャル人の先生の特徴を紹介します。男性は長ズボンにアロハシャツが正装で、女性はヌクヌクと言ったワンピースのような衣装が正装です。この国の女性はおしゃれが大好きなので、職場の同僚はきれいに髪を結び、ヌクヌクで登校します。しかし、男性はときに半ズボンで登校する先生も見られます。
また、マーシャル人は生徒に話をきかせたりまとめたりすることが上手です。なぜならば、赴任先の高校の半分の先生は海外契約教師で、アメリカ、フィリピン、フィジー、日本人の先生は生徒と英語でコミュニケーションをとっています。それに対して、マーシャル人はマーシャル語でコミュニケーションをとるため生徒との関係が密なのです。そして、マーシャル人は授業中や会議中でも平気で携帯が鳴っていても気にしません。どんなときでも電話にでます。極めつけは、授業中に問題を出して生徒が考えている間に床か教卓で寝そべる先生もいます。
このような状況が判明したので、私はクワジェリン環礁の全小学校中学校対象にワークショップを行っています。これは先生に数学の教授方法を共有することが目的であり、そのほかにも授業中の基本マナー、一年間で教えるべき数学のカリキュラムの確認もしています。12月のワークショツプで第三回目を迎えます。
私の配属先の数学の先生のほか他校の先生にも講師をしていただき、4クラスにわかれて勉強会をしています。毎回70人の先生方に参加していただき、このワークショップに非常に好意的なので、帰国後も、私の同僚を中心に続けていってもらえればと思います。
除去作業残り一か月を切りました。マーシャル諸島での経験はこれからの人生で二度と味わえない体験だと思います。マーシャルで出会った人々には感謝してもし尽くしきれません。そして、遠くからいつもきにかけてくれている両親、友人に感謝の気持ちをわすれず、任期を全うし、無事に帰国します。
機関誌「りる」様、いつも文具品を送っていただき本当に助かっています。そして、この素晴らしい国、「マーシャル諸島」を紹介する場を提供していただきありがとうございます。