現地隊員レポート    「りる」第33号より

                                                    ヨルダン   K.W
                                                             平成15年度1次隊
                                     音楽
                                                                

 「アッサラーム・アライクム」

 はじめまして、こんにちは。私が今年7月にヨルダンに来て、もう5ヶ月が過ぎました。赴任当初は夏真っ只中で、干からびてしまうのかと思いましたが、今では雨季に入り、寒い毎日が続いています。

 最近、日本でもよく聞かれるようになったヨルダン。北はシリア、南はサウジアラビア、西にイスラエル、東にイラク、と言った「ヨルダン大丈夫!?」なんて思われがちな場所に位置しています。しかしここヨルダンでは、戦争テロはなく、スリや犯罪も少なく、イスラム教の「困っている人には手を」という教えのもとに、優しく陽気な人たちが、穏やかに暮らしています。

 北海道の約1.2倍しかない国土の8割は、砂漠または土漢が占めており、そこに住む人達の約95%がイスラム教徒です。そんなヨルダンは、観光資源の宝庫です曲北部には、かつてローマ人が造ったローマ遺跡の残るジェラシュ。中部には、世界で最も海抜の低い位置にある海で、ボーリングの球でも浮いてしまう死海。南部には、世界遺産にも指定されているペトラ遺跡。ヨルダン唯一の海である紅海。映画「アラビアのロレンス」の舞台でもあるワディ・ラム。など、古くからの遺跡と大自然に驚くばかりです。

 さて私の仕事はといいますとシリアとイスラエルの国境に近い、イルビッドというヨルダン第2の街にある、ヤルムーク大学の芸術学部音楽科で金管楽器専攻の生徒を見ています。

 イルビッドは、古代遺跡や大自然とはかけはなれた街、都会です!街自体は小さいものの、大学の周りには外資系スーパーや、見慣れたファーストフード店が並び、生活するには全く困りません。

 現在、仕事が始まって2ヶ月半が過ぎました。いまだに期待した以上の驚きの連続です!ここでヨルダンの音楽事情を少し。

 ヨルダンにはクラシック音楽の存在は全くありません。しかしヨルダン人にとって、音楽は生活には欠かせないものとなっています。それはアラブ音楽。童謡・民俗音楽から始まり、いま流行りの曲まで全てアラブ音楽です。理論的にこれらには、アラブ音階という独特の音階が使われます。細かく言うと、私たちが普段使うドレミ・・・はド・ド#・レとなっていますが、アラブ音階はド・ド#・ド3/4#・レとなっています。そして、子供から大人までが器用にもこれを歌いこなしています!しかし、それらは全て耳から入ります。

 ここでは大学生になる前までに、学校で音楽の授業というものはありません。従って、私の生徒たちのように大学で音楽を専攻しなければ、音楽の基礎については何も学ぶ機会はありません。なので、たとえ音楽科の生徒であっても、大学に入学し初めて楽譜の読み方を勉強し、初めてクラシック音楽に触れるのです。全ての学生がそうであるとは限りませんが、ドの次はレであるという事を初めて学びます。入学したばかりの新入生にト音記号を指差して「これは何?」と尋ねると、自信満々に「ド♪」という答えが返ってきました。何が音符で何が記号なのかも、知らない状態です。予想もしない答えに楽しい毎日です!

 あんなにも上手にアラブ音楽は歌う事が出来るのに、なぜドレミは歌えないのか?まずは楽譜を一緒に読むことからが私の仕事です。音符を読み、リズムを手でうち、楽譜にそって歌う。もちろんすぐに理解は出来ません。1曲するのにどれほどの時間がかかるか。ゆっくりゆっくり・・・

 残念な事は、ヨルダンの大学入学制度では自分の望む学部に入れない事です。入学試験は全国共通で行われ、点数の上位から大学と学部を選ぶ事ができます。従って、望みもしないのに芸術学部に入学するケースもあります。その後も問題です。望んで音楽科に入ったとしても、専攻楽器はこれも自分で決める事は出来ません。なので、本当はこっちがやりたかったという声も少なくはありません。しかも、卒業してもこの国ではクラシック音楽が仕事にはつながらないので、結局が卒業する為、試験に合格して単位を取る為だけのもの。といった現実は、とても悲しいものですね。

 音楽をこよなく愛しているヨルダン人なので、クラシック音楽を楽しむ事も出来るはず!クラシック音楽の楽しさを少しでも多くの人に理解してもらえるよう、学生達が楽しめる音楽を目指していきたいと思います。

 音楽は世界共通語というのは本物でした。わけの分からないアラビア語よりも、演奏し歌い合う事で通じちゃいます♪気のいいヨルダン人に生活面からも支えられ、時間のある時には生徒からアラブ音楽を教わり、腹の立つ事もありますが、たくさんの事を学んで楽しい毎日を過ごしています。

 最後に・・・近隣国ではテロや戦争が多発、最近ではイラクでの日本人外交官殺害という悲しいニュースがありました。亡くなられたお二人には、ご冥福をお祈りします。こんな簡単な言葉ではいいつくせませんが、一日も早く世界に平和が来る日を祈っています。