バナナと遺跡の国で 「りる」創刊号より
ホンデュラス H.S.
平成元年度3次隊
システムエンジニア
私は、平成2年4月から中米のホンデュラスで活動し、本年6月帰国した。今、日本で平和に過ごしていると、この間までホンデュラスにいた自分が非現実的に思えてくる。
しかし、隊員経験は、私の心に多くの貴重な財産を残した。
ホンデュラスは、人口四百万あまりの農業国。西部には古代マヤ文明の文化遺産を残している。私の仕事は、それらマヤ遺跡を発掘調査し、遺跡公園として修復する考古学プロジェクトであった。コンピュータを使って、考古学のデータバンクを作成したり、ホンデュラス人スタッフにコンピュータ教育をした。特に、教育の方は、彼らの自立に力を注いだが、二年間はあまりにも短かった。将来、実を結ぶかどうかは別として、彼らの心に何かを残して帰ることができたら・・・そう思いつつ一人一人に熱意をもって教えた。
これらの活動を通じて、多くの友人を得た。友情に国境はない。国籍、民族、言葉は異っても、心と心は通じ合うことを知った。私の活動は、彼らに支えられ、励まされてやり通せたといってもいい。彼らから学んだことも多い。
スペイン語 (公用語) で「アスタ マニャーナ」という言葉がある。 「明日まで」という意味で、 「さようなら、また明日」という挨拶語である。しかし、 「今日がダメなら明日、明日もダメならあさってやればいい」というニュアンスをもつ言葉でもある。仕事でも、期限なんてあってないようなもの。そんな彼らにイライラすることもあったが、とびきりの笑顔で楽しそうに仕事をしているのを見ていると、いつしか自分も一緒に笑っていた。
「人生は楽しく生きなければ」・・・日本の管理社会でギスギスしたり、悩んだりしていた自分が、ちっぽけに思えてきた。
バナナと遺跡とカリブ海の国。自然が豊富で、輝く太陽のもと靴もはけず、粗末な衣服をまとい、学校にも行けずに働く子供が大勢いる。同じ人間なのに、私はたまたま豊かな国に生れただけだ。贅沢な日本人がすごく申し訳なく思えて、只々あの子たちの笑顔が消えないことを祈った。
二年間で様々な生き方や、価値観があることを学んだ。
何が真に豊かで幸福なのかわからないが、それぞれに価値があり、尊重されるべきである。
多様性をもった国際社会で、日本人には何が欠け、何ができるかを認識した。これからも心の国際交流を続けていきたい。