現地隊員レポート 「りる」第50号より
ホンジュラス M.M.
平成20年度1次隊
小学校教諭
『ホンジュラス便りU』
香川県青年海外協力隊を育てる会の皆様、いつもご支援ありがとうございます。
ホンジュラスに来て1年が過ぎ、残すところあと9カ月になりました。今回は2回目のレポートということで、任地グラシアスでの活動について報告したいと思います。私は、首都からバスで約8時間離れた、グラシアスという町にある地区教育事務所に小学校教諭として配属され、普段は、全校児童数約900名、教員40名の学校で活動しています。ホンジュラスには「算数大好きボランティア派遣事業」というプログラムがあります。そのプログラムの一員として、教育省から配布されている算数の教科書(児童用作業帳や教員用指導書)の適切な活用法を普及、また、教員の知識・意識向上のため日々の授業観察や研修会などを実施することが主な活動です。
先日、活動校で、「算数ゲーム大会」を開催しました。ホンジュラスの子どもたちは、あまり算数が好きではありません。教員さえもあまり好きではありません。でも、「算数は好きですか?」と尋ねると、反射的に「好き!」と答えます。なぜでしょう?理由を尋ねると、「ない。」としか返ってきません。子どもたちも教員も、算数は大事で、勉強しなければいけないと頭では分かっているのですが、楽しくないのです。
そこで、「算数に対するイメージをよくしたい」「算数に興味をもってほしい」という思いで、学校全体でのイベントを企画することにしました。今までにも、算数オリンピック(算数コンテスト)といって、何人かの成績優秀者のみが出場し、競争するという機会はあったそうですが、全員が参加し、全員が体験するということはなく、ほとんどの子どもたちは傍観者になることが多かったようです。
算数ゲーム大会の様子
このイベントを教員たちに提案したとき、この「全員参加」という点に教員は違和感を覚えていました。全員参加になると、できない児童(算数の問題が解けない児童)が目立ってしまう、算数ができないからゲームができない、と思ったようです。そこで、2人組でゲームに参加することで助け合えるような仕組みにしました。また、算数ができるかどうかを試すのではなく、子どもたちが算数を楽しむためにする、という目的を何度も説明しました。
けれど、教員たちも初めての経験で、全くイメージがわかなかったようで、ゲームのルールについての話し合いや、必要な用具の作成を進めるにつれて、次第にイメージが持てたようでした。
そして、どの学年もゲーム(障害物競争のようなゲーム)をクラス対抗にしました。日本では、運動会やスポーツのクラスマッチなど、クラスで競い合う機会がよくあります。けれど、ホンジュラスの小学校にはそのような機会がなく、また、個人主義的なところが多く、「協力して」「みんなで」という意識が低いのです。授業中に発表している友達の意見を聞こうとしなかったり、いつでもかまわず問題を解き終えたら席を立ち、教員ヘノートを見せにいったりする光景をよく目にしました。
私は、クラスメートは一緒に勉強する仲間、一緒に活動する仲間という意識を子供たちが持つために、「団結する」という機会をつくりたかったのです。そこで、クラスカラーを作り、リボンで作ったおそろいのブレスレットと、教員にも同色の首飾りを準備することにしました。同じものを身につけることで、クラスを意識し、クラスへ内で仲間意識を持てるのでは、と思ったからです。
教員もクラスカラーの首飾りをするすべての計画が、順調に進んだわけではありません。3日前になっても、その学年で必要な問題や用具がそろわなかったり、ある学年は全く練習している様子が見られなかったり、本当に実施できるのか・・・と日が近づくにつれて心配になっていきました。さらに、予行演習をしようと提案すると、「必要ない。」とあっさり断られてしまい、ますます不安になり、気分はどんどん落ち込んでいってしまいました。
正直なところ、私自身も準備とうまく伝えられないスペイン語での教員との話し合いに疲れてしまっていたのだと思います。すると、私のことをよく気にかけてくれている教頭先生がそばに来ては、「だいじょうぶ。できるから。」と何度も声をかけてくれるのです。振り返れば、一人で突っ走って、準備をしてきているつもりでいたけれど、教頭先生の机の周りには、私を手伝って準備してくれた用具がたくさんありました。
また、子どもたちからは「算数ゲーム大会するんだよね?」「これ、算数ゲーム大会で使うの?」と、算数ゲーム大会が気になって私の周りでうろうろしている子どもたちもたくさんいました。初めての、学校全体で行うイベントに私自身が緊張し、少し肩に力が入りすぎていたことに気付きました。
算数ゲーム大会の当日、子どもたちも教員もみんながわくわくしている様子が伝わってきました。ただ、「できる」「できない」の算数の時間ではなく、クラスの友達を応援したり、友達と一緒に算数ゲームの問題を必死で解いたりする姿は、微笑ましく、算数を通した一つの活動をみんなで共有できているのかな、と感じる瞬間でした。
友達と一緒に算数ゲームの問題を解く終了後、何人もの子どもたちが「すごくよかった!次、いつやるの?」と言ってきてくれ、教員も「またやりたい!」と満足している様子でした。さらに、「楽しかったね!ところで、いつ、授業計画を準備する?」と、楽しかったイベントのことで頭がいっぱいかと思いきや、普段の私との活動にさらに興味がでてきた教員もいたのです。
少しずつではあるけれど、教員や子どもたちと生活する中で、私の考えが通じているのかなと思いました。まだまだ、伝えたいことがうまく伝わらず悩むことが多いけれど、一歩、一歩、を大切にし、教員とともに試行錯誤を繰り返していきたいと思います。