ガーナの第一声 「りる」第10号より
ガーナ S.K.
平成7年1次隊
理数科教師
私がガーナに到着して四ヶ月、実際に任地で活動を開始してからニヶ月余りが経過しました。そこで現在の私の活動状況を報告させて戴きたいと思います。
1.任地での生活環境
私の任地ボソは、周りを丘に囲まれた人口二千人余りの静かな町です。首都アクラから百五十キロ弱、車で三時間とそれほど遠くないため物資も比較的豊富です。
そして何といっても、電気が使えるのが周辺の村に比べて非常に恵まれている点だと思います。何故ならこの町の西には世界最大の人造湖ボルタ湖と、その水資源を利用した世界有数の巨大水力発電所アコソンボダムがあるからです。もっともちょっとした嵐が来れば、必ずといってよいほど停電しますが。
水道もあるにはありますが、こちらは週に十時間も使えれば幸運な方で、二週間近く全く水が出ないことも多々あります。特に香川県の皆様は昨夏の水不足で御苦労されたことと思いますが、こちらでは一年中給水制限のような状況です。これでも一日にバケツ三杯も水が使えるのは恵まれた地域で、北部の乾燥地帯では更に厳しい状況なわけですから、水の有難さというものを実感せずにはいられません。
2.学校の概要
私の勤務するボソ・セカンダリー・テクニカルスクール(中等技術学校)は、その名の示す通り技術科を中心とした高校のようなものですが、商業科・普通科の生徒も技術科の生徒とほぼ同数在籍しています。各学年百名程度、三学年合わせても三百人とそれほど規模は大きくありませんが、結構いろいろな所から生徒が集まっているのに驚かされました。
現在私はガーナ人教員と同居しており、我々の住居は生徒の宿舎の隣りに位置しています。そのため一日を通じて生徒と接することができ、彼らの様々な面を発見することができました、宿舎といってもベッドの数すら十分でなく、食事も枯れ枝等を燃料に当番の者が用意しているのですから、彼らの逞(たくま)しさには目を見張るばかりです。そしてまた純粋さ明るさに救われることも多々あります。
日本で派遣前にガーナの学校についていろいろ聞かされてきましたが、その中にルーズな教師が多いというのがありました。実際私は初出勤の時にそれを痛感させられました。それというのも、学期始めの職員会議に全教員の三分の一しか出席しなかったのですから。このときはさすがに呆れてしまいましたが、彼らが何事に関してもルーズかというと、決してそんなことはありません。始業前の朝七時から授業を行ったり、時間を延長してまで教えるといった熱心さも持ち合わせています。
3.授業における問題点
ニヶ月間活動してきた中で、気付いた点がいくつかあります。
1 生徒の学力差
生徒達がこれまで受けてきた教育、各人の理解度というものは本当に様々です。世界中どこへ行っても高等教育を受けられるだろうという者から、小学生レベルの内容から説明しなければいけないような者まで、想像していたより遥かに幅広いものでした。
2 計算機の使用
日本において数字の授業で電卓を使用するなどとは信じられないことですが、ここガーナの学校ではそれが一般的になっています。電卓を使うから基本的な計算ができない、計算能力が乏しいから電卓に頼るという悪循環が見受けられます。私は本当に必要なとき以外には計算機の使用を禁じていますが、この効果が現われるにはもう少し時間がかかるでしょう。
3 指導要領の問題
セカンダリー・スクールで教える内容が多すぎるというのは非常に大きな問題です。ガーナでは段階的な教育制度改革により、以前は十一年もかかっていた中等教育を日本などと同じく六年間に短縮しました。そのため現在の指導要領には、日本では小学校の内容から大学の教養課程の内容まで盛り込まれており、非常に密度の濃いものとなっています。幸い私共協力隊員は教育省の幹部と直接話し合える機会などが設けられているので、何回も繰り返し訴えることにより、初等教育から中等教育まで一貫した抜本的な、指導要領の見直しが行われるという期待もあります。
4.教員数の不足
教員、とくに理数科教師の不足はガーナ全土における問題となっています。本校でも先学期には理科教師が一人もおらず、理科の授業は全く行われなかったそうです。何故そんなに教員が不足しているかというと、一般には教員の待遇(特に給与面)が悪く、優秀な教師達が海外に流出してしまうからだと言われているようです。しかし、現在でも政府は国家予算の大部分を教育関係に注ぎ込んでおり、これ以上の改善は早急には難しいと思います。
以上のように少し努力すれば改善されるであろう問題から、国家レベルの問題までいろいろと課題は山積みです。しかし今の私には、何よりもまず身近な問題から一歩ずつ着実に解決に向けて進んで行くという姿勢が大切なのだと思っています。そして赴任前の私の目標「ボソの子供たちに理科・数学の面白さを知ってもらい、いずれはそれらの知識を何らかの形で活かしてガーナの発展に少しでも貢献してほしい」を実現できるよう、努力を重ねていこうと決意を新たにしています。
JAGHA(日本ガーナ協会)のメンバーと平成7年1次隊