現地隊員レポート 「りる」第57号より
フィジー T.H.
平成22年度2次隊
村落開発普及員
『フィジーでの野菜栽培支援』
ブラ(こんにちは)。フィジーに赴任してから早1年が経ちました。私の住んでいる村にはエメラルドグリーンの海も白い砂浜もありませんが緑に囲まれた素晴らしい自然の中で生活しています。南国の楽園と呼ばれるだけあって多くの恵みを自然の中から手に入れることが出来ます。ただ来てから思ったことは海からの恵みよりも山からの恵みの方が圧倒的に多いことです。
私の赴任先はフィジー最大の島ビチレヴ島の北部に位置するラ県です。ラ県はフィジーで最も開発が遅れていると言われている地域です。配属先はネイティヴ系フィジー人(実はフィジーの全人口の4割程度がインド系なのです)の村を管理しているラ県事務所ですが、実際はマタワイレヴ村という村の中に入って活動しています。
村ではフィジー人の家庭にホームステイしているので現地の人々と全く同じ生活をしていると言えます。私の要請内容は「村の開発ニーズを調査し、住民の生活向上に資する活動を行っていくこと」であり、具体的に何を行って行くのかはボランティアの裁量に任されています。本当にボランティアの腕の見せ所と言えるような案件だと思います。
最初は家を一軒一軒回って聞き取り調査を行い、村の生活実態を把握することに努めました。また村人と同じ目線に立てるように私自身も村人なら誰もが持っている農具のみを使って雑草の生い茂った土地を開墾して自家菜園づくりも始めました。フィジーの大部分の土地は栄養分の少ない粘土質の赤土で、乾燥している時は岩みたいに硬いので畑を耕すのも一苦労でした。ただ往来の多い場所に畑を作ったことで立ち止まって畑を見てくれる村人もおり、コミュニケーションの機会は増えました。
村人と村周辺の草刈り村で活動して行く中でわかったことはマタワイレヴ村は他の村と比べて農業が発達していないことです。他の村ではサトウキビ栽培や野菜栽培が行われているのに対して、私の村では農業といえば主食のキャッサバ栽培ぐらいしか行われていませんでした。フィジーでは豊かな気候のおかげで1年を通して最低限の食料は確保出来るため、食べられないという状況に陥る事はありません。
ただ村の中で食べる野菜は非常に限られており、野菜が食卓に上がらない日もありました。また農作物を販売しようにもキャッサバか森で採れる果物ぐらいしかありません。生活必需品の購入から冠婚葬祭や学校や教会への寄付など現金が必要な機会はフィジーの農村でも増えています。そこで野菜栽培を活動の柱にすることに決めました。
野菜栽培支援を行うにあたって、まず村人の野菜栽培経験の調査を行いました。そこでニンジンやピーマン、スイカなどの栽培経験があまりないことが分かりました。しかしこうした野菜にかぎって市場での取引価格が実は高かったりします。そこで村人がこれまで栽培した経験がほとんどない野菜や市場価値の高い野菜、また土壌に良いと言われているマメ科の野菜栽培を支援してきました。
ただ私自身もこれまでまともに野菜を育てた事がなかったので自家菜園で素人なりに一生懸命育てたり、農業専門の隊員や野菜栽培に詳しい他の村の農家さんにアドバイスをもらいながら行ってきました。ニンジンやピーマンを育てた事のない村人は当初は消極的でしたが私が自家菜園で栽培したことで徐々に興味を持つようになってきました。
家の横に植えたチンゲンサイを指さす村人1年目のシーズンを終えてある村人から「これまで野菜栽培は難しいと思っていたが、自分でも出来た。来年はもっと大規模に栽培したい」という嬉しい声をいただきました。またある村人は一度はスイカ栽培で失敗したものの、無事に栽培・収穫そして販売まで行い、自信に繋げてもらうこともできました。1年経った今は去年と比べると畑の数も、食べる野菜の数も増えています。現在は雨季にピーマンの値段が高くなることからピーマン栽培がやる気のある村人の中で流行っています。
この他にも野菜を街まで販売しに行くのにはバス代が高いということで手作りの直売所も作りました。ただ私は音頭をとっただけで、実際に建てたのは村人でした。私はほとんど戦力外だったと思います。建設はしたものの売るものがない、本当に売れるのかということで当初は利用する村人は少なかったのですが、最近ある村人がスイカやトマトを完売してからは徐々に利用者が増えてきています。
完成した直売所この2年間の私の目標は「野菜栽培を通しての生計の向上」です。ただここで生計の向上とは収入が増加してもタバコやヤンゴナ代に消えていく場合もあるので現金収入という意味だけではありません。フィジーの村社会を観察していくと街に住む親戚との関係が深く、村人の中には栽培した野菜を必ずしも市場で販売せずに街で暮らす子どもや親戚にあげる人もいます。ただし困った時などは彼らが支援してくれます。こうした現金収入のみに限らないフィジー社会内に存在する暮らしを成り立たせる機能を上手い事利用出来ればいいのかなと思います。
収穫したスイカを直売所で売る様子また最近は村外の人々からも呼ばれる事が多くなってきました。その中に雨季にトマトを栽培したいので日本のようなビニールハウスを建設したいという声がありました。その農家さん自身はやる気がかなりある方で、建設する費用はありますが方法がわからないということでした。日本版のビニールハウスを日本から輸入出来ないかと尋ねられましたが部品がフィジー国内で手に入らないと補修出来ないこともあり、現在フィジー版のビニールハウスを建てることは出来ないかと情報を集めているところです。必要な情報などを走り回って集めてくること、これが村落隊員の面白さではないかと思います。
1年目でなんとか土台は作る事が出来たのではないかと思います。そしてこれからの1年が一番の正念場になるのではないかと思います。この1年でどこまで出来るかはわかりませんが村落普及員らしく走り回り、泥にまみれながら活動していきたいです。もし香川の皆さんもフィジーに来られるような機会がありましたらぜひ村の方にもお立ち寄りください。