中国の息吹き           「りる」第5号より

     中国          A.S.

                     平成5年2次隊

                     病虫害

 

 湖南省・長沙にある湖南農学院へ赴任して早一ヶ月、どうにかこちらの生活ペースが掴めてきたところです。当学院で病害の研究と農薬学の授業を行うのが、当初、私に与えられた仕事でした。ところが、まだ教壇に立てる語学水準に達していないとのことで、半年から一年間は農薬学の授業の代わりに15人程の生徒に日本語を教えることになりました。

 生徒と言っても聡明な若手研究生・教員たちですから、彼らが発する質問は鋭く要求は高度なもの、しかも批判は厳しいものばかりで毎日、汗をかきかき講義をしているのが現状です。ただ、私たちが普段何気なく使っている日本語も彼らの質問を通して見えてくる姿は、まったく別な姿であることが多く、結構おもしろいものです。

  日本語を学ぶ生徒たちと(25〜35才)


 本業の研究の方も二年間の活動計画について大筋の点で合意できました。本省の最重点課題「稲イモチ病対策」という大きなテーマをいただき、おまけに、その課題を省の研究課題とし予算措置までしていただきました。現在、その責任の重大さを感じつつ二人の若手研究者と一緒に作業計画を練っているところです。

 この大学は、日本の大学はもちろんのこと、他の中国の大学と比べてもユニークなところです。学生、教職員のほとんどがキャンパス内に住んでいるうえ、その子弟が通う小・中学校、郵便局、市場、医院等生活に必要な機能すべてを有しております。だからオフタイムの際にも近くの先生の宿舎でお互いに語学の勉強をしたり、隣人であるVSO(イギリスボランティア組織)の英語教師たちと一緒に食事をしたり、また、学内の商店、市場で買物をしたりと滅多に学外へ出ることはありません。

  英人教師と共通の生徒


 市場は毎日大勢の人たちで賜わっております。実験農場の農民たちが、その日収穫してきたものを売りにくるものですから品数豊富で新鮮です。また、信じられないくらい安いです。例えば、チンゲイ菜500g4円、ジャガイモ1kg16円、玉子一個5円60銭です。最近、市場のおばちゃんたちとも顔見知りになり私があまりしゃべれないのを気遣ってか向こうの方から「今日は何がいるの?」と話しかけてくれたり、何か買う際にはゆっくり大きな声でゼスチャアを交えてしゃべってくれるようになりました。

  学校内の市場の風景

  学校内の売店の風景・物資豊富

 こんなキャンパス生活ですから実にのんびり、なに不自由なく過ごしておりますが、ただ、あかぎれでザラザラになった手を見たときGパンのウエストが重ね着しても余裕ができ始めたとき、「やはり、異境の地にいるんだな。」と感じます。

 長沙は湖南省の省都であります。この大学からバスで30分ぐらい西へ行ったところに中心街があります。香港・広州から内陸へ向かった最初の大都市である関係からか、香港・広東の資本投資がさかんで、毎日、街のどこかで百貨店やレストランまたは商店がオープンしています。おかげで、大抵の物資が手に入るようになったらしいのですが工業製品を中心に物価上昇が激しいらしいです。今の長沙はたいへん活気があります。私の子供の頃(一九六〇年代)に記憶している日本に何か近いものを感じます。

 ただ、一部の人たちは少し過熱気味ではないかと感じることが多々あります。街の四方八方から、車のクラクション、自転車のベル、人の怒号が断え間なく響き、突然、真後ろから爆竹の爆音がしたりします。一度バスに乗った際、クラクションの数を数えたことがあります。50回まで数えたところでやめましたがおそらくその運転手は30分間に100回近く鳴らしたと思います。また、私が数える程しか街へ出ていないにもかかわらず、その間7回の交通事故と4回の殴り合いのケンカに遭遇しました。ここには日本では到底想像できない世界があるのです。

 この春、いよいよ本格的な活動が始まります。仕事で、省内各地の田舎へ行く機会も多いようです。そこでは都市部とまた違った世界があると思います。これから、どんな出会いどんなことが待ち受けているか今からワクワクする思いております目また、それらのことについて、後日お便りしたいと思います。