現地隊員レポート 「りる」第40号より
中国 M.H.
平成16年度2次隊
日本語教師
『ありがとうございました!』
最近風の強い日が続くようになりました。春が近づいているしるしです。日本のように優しいそよ風ではありませんが、春の訪れを感じる砂嵐です。
さて、今回はお礼と報告がしたくて投稿させていただくことにしました。昨年の9月頃、OB会の方々にお願いしていたことがあります。それは、いらなくなった日本語の本を譲ってくださいというお願いです。
私の赴任先では生徒の約1割が日本語を勉強しているというのに、今まで日本語の本と呼べるものが全くなかったのです。日本語で書かれたものと言えば、教科書、数冊ある辞書、それに問題集、ただそれだけだったのです。小さな田舎の街なので本屋に行っても当然日本語の本なんてありません。
娯楽の本はおろか、参考書や辞書、問題集も少なすぎて日本語の先生たちが集まる事務室にさえ本棚もありませんでした。それぞれの机の上に積み上げておくだけで事足りていたんですね。
ある夏の日、生徒たちとスイカ割りをしました。そのとき、スイカの下に日本語の新聞を敷いていたのですが、スイカ割りの後、生徒たちがそのスイカの汁でベタベタになった新聞を取り合うようにして読んでいました。それを見て、ああ、何か日本語の「読み物」があればなあと思ったのです。中国の学生はそんなに日本語力がなくても、漢字があるので読むだけなら少々難しくても読めます。それで、思い切って推進員の池田さんに相談し、OB会の方々に協力をお願いすることにしたのです。
こんな厚かましいお願いに協力してもらえるだろうか、と少し不安だったものの、みなさんのおかげでたくさんの本が11月、無事に届きました。届いた本を見たときの日本語の先生たちの嬉しそうな顔がとても印象に残っています。そして、どんな本があるか、みんなで先を争うようにして取り出しながら大騒ぎしていました。
さて、届いた本ですが、今までのように机の上に積み上げておくわけにはいきません。池田さんから「送りました」という連絡をいただいた後、やっぱり本棚が必要だということで、日本語の先生たちと一緒に校長先生に本棚を買ってもらうお願いに行ったのです。本棚を買って欲しいと言うと、初めは少し渋い顔をしていた校長先生も、OB会の方々にお願いして本を送ってもらうことになったことを説明すると、笑顔になって承諾してくれました。
その後、一人の日本語の先生が本棚を選びに行き、無事に立派な本棚が事務室に運び込まれました。そうして今は立派な本棚にたくさんの日本語の本が並んでいるというわけです。
まだまだガランとしていますが、いつかこの本棚がいっぱいになればいいなと思います。
中国の高校生は日本の高校生と違って拘束時間がとても長く、自由時間がほとんどありません。毎日の勉強と宿題で手いっぱいなはずです。それでも、時々生徒が日本語の事務室にやって来て、「先生、簡単な本はどれ?私でも読める本はある?」と聞いてきます。
日本語を勉強しているとはいえ、普段、生の日本語に触れる機会なんて皆無に等しい彼らです。私たち日本人が英語に触れる機会の比ではありません。ただ受験のためだけに日本語を勉強しているのが実際のところだと思います。
でも、やっぱりそれでは楽しくないだろうし、「ああ、これ分かる!」という達成感も問題に正解する以外ないなんて、寂しいと思うのです。言語は文化であり、コミュニケーションの道具です。(コミュニケーションの道具であり、文化だという方が文章的には正しいのかもしれませんが、敢えてこの順序にします。)
使えなければ楽しくない、自分で自由に使えなければ意味がない。だから、「読む」という受動的な活動であったとしても、自分が勉強している外国語を使う、そういう機会をできるだけ増やしたいと思っています。そうして、道具を駆使しながら、その言語のもつ文化も自然に学んでいけるんじゃないかと思います。
私自身のことを考えると、勉強する一番の基本になっているのは「知りたい」という欲求です。そして、それを継続させるのは「楽しい」という気持ちです。受験日本語にただひたすら追われている彼らのうちの何人かでも、日本語の本を見て「読みたい」「ああ、読める」「楽しい」と思ってくれたらいいなあと思っています。
生徒の写真:ちょっとやらせ入ってますね。すみません。でも、日本語が大好きな生徒たちです。
最後になりましたが、快く本を譲ってくださった方々、いろいろと相談にのってくださった池田さん、そして、あんなに重い本の郵送料を負担してくださった育てる会の皆さま、本当にどうもありがとうございました。立派な本棚に行儀よく座っている本たちを見る度に、日本語が好きになってくれる生徒がひとりでも増えるといいなあと思います。