現地隊員レポート 「りる」第37号より
中国 M.H.
平成16年度2次隊
日本語教師
『チンライ県にやってきました!』
春の足音が聞こえてくる季節となりました。私の任地、中国吉林省鎮莱(チンライ)県にも少しずつ、春の訪れが感じられます。私の部屋の窓には、私が来たときからずっと氷がはっていたのですが、それがつい最近、融け始めたのです!・・・とは言っても、日中の最高気温はまだマイナスを抜け出していません。私が赴任した12月は、最低気温がマイナス30度より下がることもありました。それくらい、ここは寒さが厳しい地域なのです。
「中国」と聞いて頭に浮かぶのはどんな光景でしょうか。北京の天安門広場、そこを縦横無尽に横切る自転車の群れ、上海の高層ビル、たくさんの人、人、人。もしくは、水墨画などで描かれる、仙人でも住んでいそうな美しい山や湖。私が住んでいる鎮莱県はそのどれも見ることができません。ここは草原の中の街です。今はまだ雪原といった方がしっくりきますが、山も川もなく、高い建物もありません。
中国は今、めざましい発展を遂げている国です。北京や上海などに行けば、日本と同じものが簡単に手に入ります。でも、それは一部の大都市やその周辺だけです。私はまだ赴任して数ヶ月なので、他の地域を自分の目で見たわけではありませんが、少なくとも、ここではみんな質素な生活をしています。
街に走っているのは、三輪の小型タクシー、人力車、ロバ車、最近暖かくなったからか見掛けるようになったトラクター。停電や断水も日常茶飯事です。私の家は鎮莱県の中心部なので電気も水道もガスもありますが、ここから少し離れただけで、電気、水道などのない家がたくさんあります。
私の仕事は、鎮莱県第三中学校という日本の高校に当たる学校で日本語を教えることです。生徒のほとんどは、中心部から離れた農村から来ているため、寮生活をしています。ここは大学進学率90%という進学校。決して豊かとは言えない家庭で育ち、家族、親戚の期待を一身に背負って、みんな朝早くから夜遅くまで一生懸命勉強しているわけです。家が貧しくて途中でやむなく休学する生徒もいるため、同じ学年でも年齢はまちまちです。
生徒はみんな、とても素朴でかわいらしく、一生懸命勉強している姿には本当に胸を打たれます。あの子たちの日本語がもっと上手になるように、そればかり考える毎日。もちろん、そう簡単なことではありませんが・・・。それからもうひとつ。中国人の先生たちの日本語能力を高めることも私の仕事のひとつです。先生たちもとても熱心な方ばかりで、先生の熱意に感動して、つい涙が出そうになったことすらあります。そんなふうに、私はとても周りの人に恵まれて暮らしているわけです。
私はここにやって来て、まだ3ヶ月。でも、もう既にチンライ県が大好きになっています。なぜって?−生徒、先生、街の人みんながとても親切だからです。気温は極寒の地ですが、みんなの心の中は本当に温かいのです。例えば、私は総会などで北京に行くことがあります。北京のお土産(小さなお菓子)を生徒に一つずつ配ったところ、みんなとっても喜んでくれて「記念にとっておく!」「家族と分ける!」こんな言葉が口々に飛び出してきました。
そして、授業の前には必ず、職員室まで私を迎えに来て、荷物を持ってくれます。先生たちは、日本語以外の先生でも、酸菜という白菜の漬物を分けてくれたり、お手製の餃子やマントウを部屋まで持って来てくれます。
街の人は、例えば三輪タクシーの運転手さん。私をしばらく見掛けなかったら「しばらく見なかったね。どこか行ってたの?」と声を掛けてくれます。例えば写真屋さん、「日本人のお客なんて嬉しいから安くしとくよ」。例えばクリーニング屋さん、「日本が恋しくない?春節(中国の旧正月)はどうするんだ?行くところがなかったらうちにおいで」。例えば郵便局のお姉さん、仕事をよそに「樋口三希子(中国語ではトンコー・サンシーズのように発音します)は日本語でどう読むの?」。挙げると本当にきりがないです。
私の仕事は、生徒と先生たちの日本語能力を高めること、と書きました。でも、それだけではありません。私には、他にも大切だと思う仕事があります。
こんなに温かい人たちに囲まれて、私は幸せだなあと思う毎日。もちろん、授業がうまくいかなかったり、語学の壁があってみんなとうまくコミュニケーションできなかったり、落ち込むこともあります。それでも、私は毎日をこんなに温かい気持ちで過ごすことができる、そのことに感謝しています。日本と中国の関係は、歴史・外交などの難しい問題もあります。
でも、そんなことは関係なく、私たちはこんなにも仲良くなれる、ここの人たちはこんなにも私に親切にしてくれる、そのことを日本のみなさんにお知らせしたいと思います。それが私のもう一つの仕事です。そして、私たちみんながもっともっと仲良くなるために、私が少しでも出来ることをこれから考えていこうと思っています。