ブルガリアでの日々(V)      「りる」第19号より

     ブルガリア       S.I.

                     平成9年度2次隊

                     日本語教師

 約4ヵ月という長い夏休みが終わり、新学期も始まって忙しくなってきました。現在11月上旬、夜にはマイナスを記録する日もでてきました。またあの厳しい冬が来るのかと思うと恐ろしい・・・。

ブルガリアの栗?
 初秋まで市場ではたくさんの葡萄、桃などが売られていました。ワインの産地だけあって葡萄はとても美味しく、毎日のように食べていましたが、とうとう売り場から消えてしまいました。残念〜、と思っていると、道端にたくさんの栗が転がってるのを発見、ブルガリアにも栗があったのか、わーい!・・・しかし至る所に落ちているのにブルガリア人の誰一人として拾おうとする人はいません。

それどころか気づかずに踏み潰して行く人さえいます。おっかしいなあ、と不思議に思って聞いてみると、栗に似ているけれども食用ではなく、ものすごくまずいとのこと、見た目は栗なのに・・・これまた残念。私の大学の周りには街路樹としてたくさんこの木が植えられているため、歩いていると突然上から「ボトボトッ!」と落ちてきて危険です。

幸いイガグリのようにトゲトゲはついていないのでまだましですが、外でお茶を飲んでいる時に強い風なんかが吹くともう大変、カップにストライクしたりジュースをひっくり返したり、一瞬にしてその場は大騒ぎとなるのでした。

  パザール(市場)にて この国は計り売りが主です

風邪薬にはラキヤ
 急に寒くなったせいか少し風邪気味の私、薬を飲んではいるけれど、鼻水と咳が止まりません。そして今、ここスヴィシトフ市では水道水が原因の伝染病が流行っているとの噂あり、友達に「絶対水道水飲んじゃだめ。」と言われました。

えっ、もしかしてこの長引く風邪は伝染病!?と焦っていたら、どうやらそれは腸チフスに似たものらしく、(どの程度のものかは不明)高熱と腹痛が続くとのこと、「あなたのはただの風邪、ラキヤでうがいすればすぐ治る。」と、言われました。ラキヤとはブルガリアのお酒で、果実酒なのですが40〜60度もある強いもの、う〜んイソジン使おう。

水道水の問題
 ブルガリアの問題の一つに水があります。本によってはブルガリアの水はきれいで、水道水から直接飲める、というようなことを書いていますが、場所によっては逆だったりします。この国には温泉があり、水自体は問題ないらしいのですが、水道管やフィルターを通すことによってせっかくのきれいな水が汚れてしまうそうです。

というのも、古くなっているのにそれらを取り替えるお金が無くてそのまま使ってるため、そこからサビや細菌が発生しているのです。現在ブルガリアには水質検査に関わる仕事をしている隊員もいます。口に入る水は全てミネラルウォーターで賄っている最近、阪神大震災の時にも水のありがたさを感じましたが、(学生の時神戸に住んでいました。)ここブルガリアでもまた水についていろいろ考えさせられています。

  車と平行してパッパカ走る馬車

高校文化祭にハラキリ
 さてさて、次に最近あった高校の文化祭について書こうと思います。大学のそばに経済関係の高校があるのですが、そこの文化祭に招待され、様々な催し物を見ることができました。とてもアットホームな文化祭で、歌あり、ダンスあり・・・と、突然、ステージに空手着を着た男の人がでてきて、「ハラキリ〜!」と叫び、どうやら切腹のパントマイムらしきものを始めるではありませんか。

刀を研ぎ、「トヨタホンダカワサキ〜!」と言いながら切腹、けれども死ぬことができず、その後何度も様々な場所から刺して死のうとするけれども叶わず、結局は刀の先に指が当たり、血が流れるのを見てショックで死ぬ、というオチで終わりました。学生には大ウケで、ずっと爆笑が続いていましたが、うーん、なんか複雑だなあ、でもよく考えたなあ、といろいろ思っているところへみんなの「気に入った?」「おもしろかったでしょ?」と質問攻撃、「う、うん、なんか興味深かった。」と答えた私でした。

かな、カタカナ、漢字
 また最後になってしまいましたが授業について。今年度に入ってやっと1〜4年生まで全クラス揃い、(今年度初めて日本語選択者から卒業生がでる予定。まだまだ始まったばかりの日本語クラスなのです。)加えて2つの公開講座、それなりにそれっぽくなってきました。

全く初めから勉強する段階を「0(ゼロ)初級」と言いますが、今の一年生にとって日本語はかなり驚きの言語らしく、「なんで3つも文字に種類があるんだ!?(ひらがな・カタカナ・漢字のこと)」とか、「上から下に書くなんて変だ!(文章のこと)」とか、ワーワー言いながら勉強しています。中でも一番よく聞かれる、そして一番恐ろしい質問は、「漢字は一体幾つあるのか。」というものです。

「・・・言いたくないけど5万字あるとも言われてる。」と答えると、たいていの学生の顔には絶望感が漂います。「でも全部覚えなくてもいいんだよ。私も全部は知らないし。」というとホッとしていますが、必ずと言っていいほど次に「じゃあ日本人はどれぐらいの期間漢字を勉強しているんだ?」と聞いてきます。そこでまた「・・・うーん、死ぬまでかなあ。」と意地悪なことを言うと、またまたガーン、といった表情に・・・。「冗談冗談。」と言っているけど、これはある意味本当だと思います。

よく考えたら一生かかっても文字を全部覚えられないなんて、確かに不思議かもしれません。漢字は単語だと思えば普通なのですが。(ちなみにブルガリア語は30文字。)

 もうすぐブルガリアに来て1年になろうとしています。ここでの生活が日常化してしまった今、初めの頃のような大きな驚きは少なくなりましたが、そのかわり毎日の生活の中で、人々の考え方、行動様式、そしてこの国の在り方を学んでいるように思います。あと1年と少し、このまま平和に過ごせますように・・。それでは。また。