今、協力隊活動の何を子どもたちに伝えたいのか? 「りる」第45号より
バングラデシュ Y.M.
平成2年度3次隊
体育
二年三ヶ月のバングラデシュでの活動からはや15年がたとうとしています。その時の流れのなかで、三人の息子の母親になりました。子どもを産み育てていくなかで、バングラデシュでお会いしたお母さんたち、子どもたちの気持ちが痛いほど理解できるようになってきました。日常生活のふっとした場面で、いろいろな場面がよみがえってきて、ああ、あのとき彼らが言ったことは、こういう意味だったんだなあ、とか、こういう気持ちだったんだなあとか、よく考えます。
例えば、活動のひとつに女性教師のための研修会を企画・運営したのですが、当時は、女性教師の立場の弱さや、指導技術のなさばかり目につき、なんとかして彼らのために研修会を開催しようと意気ごみ活動しました。研修会も二回開催し、女性教師たちにも喜ばれ、次の隊員にも引きつぎ、満足できる活動だったと思いました。
しかし、今思うのは、一週間もの間、彼女等の家庭はどうしたのだろうか、子どもたちの世話はだれがしたのだろうか、ということなのです。今、私が一週間家にいなければ、本当にたいへんなことになります。彼女たちは近くに親せきもいない人も多くいたはずです。でも、だれもひとことも私に相談しなかった。たぶん、裏方としてひとりでがんばっていた私にそのような家庭のことを相談できる余裕を感じさせなかったのでしょう。本当によい活動だったのだろうか、人間として小さかったなあと、今だから思うのです。
三年前から、小学校や幼稚園で英語を教える活動をしています。その関係で、小学生や中学生に、協力隊活動のことやバングラデシュについて話す機会が増えました。講演ではありません。短いときには、たった5分間で話すよう言われることもあります。香川県に定着した当時は年間何十回も話したこともありました。
その当時も、帰国した情熱とともに体験談を語っていたに違いありません。でも今は、もっと真剣に子どもたち、生徒たちに向かいあって話をしようとしています。ただ情報を伝えるのではなく、ただ自分が行った活動を述べるのではなく、自分はどう考えたか、自分はどう感じたか、自分はなにを思ったか、そして今日本に生きて、それに対してどう思っているか、彼らの心に届けたいのです。
先日、高松第一高等学校の国際クラスの生徒さんたちに話をする機会がありました。写真を見せながら、話をしようと計画していましたが、当日機械の調子が悪く作動しませんでした。私は生徒さんたちが提出してくれていた質問や疑問の用紙を見ながら答えていくつもりで話をすることに決めました。
彼らの質問は、私はどのような高校生で、いつ青年海外協力隊に興味を持ったか、また、派遣された後、つらかったこと、たいへんだったこと、またそれらをどのようにのりこえていったか、というものでした。彼らが興味があることは、まさに私の心の動きや、対処の仕方なのです。
ひさしぶりに、当時を思いおこし、高校時代から話しはじめました。自分の子どもたちにも、自分のことを真剣に語ることはありません。しかし、キラキラした瞳でこちらを見て聞いてくれている彼らは、自分の子どもたちのように、いとおしく感じられ、つつみかくさず、自分の心の流れや感じたことが話せました。話だけだったのに、本当に熱心に聞いてくれて、とてもうれしく思いました。
今、なぜ協力隊活動の経験を語りたいのか。自分が生きてきたなかで、自分の本質をいやというほど見せつけられ、またそのなかでもどうにかのりこえようともがき続けた貴重な経験のひとつであったと確信するからです。これからも、コツコツと今を生きるすばらしい子どもたちに、何かを伝えていく活動を続けていきたいです。
日本の子どもたちも、新聞やニュースで言われるような子どもばかりでなく、日本のなかで生きていくたいへんさのなかで、またどうにか前に向かって進んでいこうと日々生活しています。その彼らに、うん、また私も今から自分らしくやっていけばいいや、と思わせるものを伝えられればと思うのです。